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《たつこ伝説》
昔々、神成沢に三之丞という家があり、そこに「辰子」というそれはそれは美しい娘がおりました。
年頃になった辰子は、女性なら誰もが望む願い、いつまでも若く美しいままでいたいと思うようになりました。
辰子はその為に大倉山の観音様に願掛けをし、晴れて満願となった日、夢に観音様が現れ「山を越えて北へ行ったところに清水がこんこんと湧いている所がある。
その水を飲めばおまえの望みは叶うであろう」とのお告げがありました。
喜んだ辰子は春を待ち、春が訪れるとさっそく女友達を連れて山菜を摘みに行くと称して北へ向かいました。
その道すがら、小さな小川がありました。
小川には魚が泳いでおり、どうしたものか辰子はその魚を難なく捕まえることができました。
ちょうどお腹の空いた時分でもあり、さっそくその魚を焼いて食べたところ、辰子はにわかにひどい喉の渇きを覚えました。
あまりの渇きに耐えかねているそのうちに、向こうに綺麗な清水のこんこんと湧き出る泉があるのを見つけました。
辰子はこれこそお告げのあった泉だと思い、さっそくその泉の水を飲み始めました。
しかしどうしたことでしょう。
いくら水を飲んでも一向に喉の渇きはおさまりません。
辰子はもう腹ばいになり、直接泉に口をつけて飲みはじめました。
その時、恐ろしい雷鳴が鳴り響き、あたリは夜の様に暗くなり、激しい雨が降りだしました。
山は崩れ、川をふさぎ、ごうごうと降る雨はいつのまにか満々とした湖を作りだしていました。
そして辰子の方はというと、いつのまにか大きな龍へと姿を変えていたのです。
逃げ帰った辰子の女友達は、事の次第を辰子の母に伝え、母は驚いて松明を片手に辰子の友達の言うその場に行くと、恐ろしい龍となった辰子の姿がありました。
母は「ウチの辰子は何処へ行った、おまえは辰子ではない」と叫び、松明を湖に向かって投げ捨てました。
龍となった辰子は言いました。
「私は観音様にお祈りをし、永遠の若さと美しさを手に入れました。
私はもう人間ではありません。
竜神となって永遠にこの湖を守るのです」そうして悲しそうに湖の底へと消えていきました。
母が投げた松明は、いつのまにか黒い、不思議な魚に変化し、これも湖の底へと消えていきました。
これが辰子姫伝説と、田沢湖にしかいない(いなかった)キノシリマスの由来です。